初恋、苺大福、国会議事堂

ーーー初恋の人と、国会議事堂で、同じ数の苺大福を食べると、二人は両想いになれる

 僕は授業中、夢の中でその予言を聞いた。
 ぽかぽかした陽気の中でうとうとしていると、急に聞こえたのだ。いや、正確には聞いてないのかもしれない。しかし僕は、それをはっきりしたものとして認識していた。
> 初恋の人……意識するだけで胸が熱くなる。僕は右前に座っている、きらきらした黒髪に彩られた横顔を見つめる。細かな睫毛に縁取られたまんまるな瞳を黒板にむけて、ノートにペンを走らせている。
 僕は始業式の日、桜の木の下に佇む彼女に一目惚れした。同じクラスになれたらいいなと思いながら教室に行くと、そこに彼女の姿があった。
 僕はすぐ近くの席に座れたので、なんとか話をして仲良くなれた。休憩時間にもときどき
 でも、僕が抱いている思いを、彼女も持っているのだろうか。そう考えると、さっきまで幸せに満ちていたはずの心がざわざわして、不安が広がっていく。

 どうしても気になったので、思い切って確かめることにした。倉田さんは甘い物の話には目がないので、そこを攻めてみよう。
 倉田さんはちょうど帰り支度をしている頃だったので、声をかける。
「倉田さん。良かったら今日、苺大福を食べに行かない?」
「はあ? なんでそんなとこ行くのよ? 馬鹿がうつるわよ」
 誘いざますぐに、鋭い目線が飛んでくる。
 倉田さんは、外見に似合わずキツイ口調で話す。そのギャップにも魅了されてしまう。
「いや、議員は馬鹿じゃないし、うつらないからさ」
「わかってるわよ。それで、私が行かなきゃいけない理由ってなんなの? いくららくだと一緒だからって、国会について行くほど私は暇じゃないの。これから掃除もあるんだし」
 ちなみにらくだとは僕のあだ名である。授業で発表するとき、「僕は」と言おうとしたのに「ぼかぁ」と言ってしまって以降、クラスのほとんどの人からそう呼ばれている。
 ……しかし困ったな。まあ、冷静に考えると「国会に行こう」と誘われて疑問を持たずについてくるほうが怖いけれど。
 ……なんとか他の理由を考えないとな。
 自分のボキャブラリー不足を嘆きつつ、僕はこんな提案をした。
「ほら、今日授業で国会について勉強したでしょ。ついでに、本物も見てみようと思って」
「そんなの見てどうするのよ。コカインとかならいいけど、国会なんかつまらないわ」
「え? 今さらっと危険なこと言わなかった?」
「にゃんでもらいは。ほれじゃあわらり、ひそふはは」
「既にやられてるっ?!」
「まあ、冗談はさておき……私も一緒に行くわ」
「ほんとに?!」
 よしっ! 経過はどうあれ、何とか約束をとりつけたぞ!
「ええ、掃除は当番の他の人達に任せるからいいわ。こんな時、集団生活は便利ね」
 倉田さんがさも当たり前のように言う。彼女はマイペースで、周りの意見はあまり気にしない性格だ。
「いや、一緒に行ってくれるのは嬉しいけど、掃除はちゃんとしようよ。他の人に迷惑がかかるよ」
「怠けアリは、働きアリが疲れた時のために体力を温存しておくものなのよ」
 そういう問題じゃない気がするけど……。それに、倉田さんなら、働きアリが疲れたときも、働かずに同じことを言いそうな気がする。
 まあ、OK貰えたんだし、いいかな。掃除くらい。
 僕達は教室を後にし、国会へ向かった。


 ◇◆◇◆


 「それにしても、国会へ入れるなんてすごいわね。らくだくん、議員に知り合いがいるの?」
 ……
 ……?
 突然の質問で意味が解らず、少し躊躇してしまう。
 「え……そんなのいないけど」
 そう答えると、倉田さんは僕を見つめながら眉をひそめた。
 「じゃあ、どうやって国会に入るの?」
 「えーと……普通に入れるんじゃないの?」
 「そんなわけないでしょ! 国の最重要機関よ!? 一般人が自由に出入り出来たら、毎日テロが起こってるわよっ!!」
 「そうなの?!」
 「当然よっ!! 全く、そんなことも知らないの? アンタの脳、骨粗鬆症になってるんじゃない?」
 うう……確かに、こんなの常識だろうなぁ……。怒るのも無理はない。でも、だったら授業の時に教えてくれてもいいのに。学校の勉強はぬけてるなぁ。
 「……まぁいいわ。国会の見えるとこにでも行きましょう。ちょうど近くに公園があるから」
 「そうそう! その公園に行こうと思ってたんだよ! ホラ、今日は天気もいいし」
 「ふーん、でもらくだくん。その公園の名前ってわかる?」
 …………。
 「……知らないんだ。へぇ、人に無駄足踏ませといて、フォローもろくに出来ないわけ?」
 「いや、けしてそんなことは」
 「じゃあ言ってみなさいよ」
 僕はこれまでに読んだ本をサーチして、状況に最適なセリフを考えた結果、こう口にした。
 「倉田さん……物知りだね」
 とりあえず褒める。これにつきる。
 「無難すぎるわね」
 「国会について知ってる女の子はそんなにいないよ。きっと頭の形がいいんだね。それに目も耳も、綺麗だから覚えられるんだろうね」
 さらに畳み掛ける。自分でも何を言っているのかは良くわからない。だが少なくとも、レッドカードが出るほどの酷さではないはずだ。
 「……ふっ」
 僕が言い終えると、倉田さんが笑い出した。やっぱり変だったかな。でも、変な顔をされるよりはいいかも。
 「それ、かっこつけてるの?」
 「そうじゃないよ。倉田さんを見てると自然とそう思ったんだ」
 倉田さんは何度か反芻するように頷いた。
 「ふむ……フォローとしては合格ね」


 目的地の公園について、時計を確認する。午後4時55分。
 もう夕方にもかかわらず日は高く、眩しい白い光を放っている。そろそろ訪れる夏を予感せずにはいられない空だ。
「で、キミはどんな風に私を楽しませてくれるのかな?」
 見るもの全てを屈服させるかのような鋭い眼差しを向け、ぶっきらぼうに言う。
「え、何?」
「こ、こんな人気のないところに呼びだしたってことは……」
 と思いきや、突然もぎたてのりんごみたいに顔を赤らめて、上目遣いで僕を見つめる。こちらは別の意味で屈服させられそうだ。
「そうだね。君の思ってる通りさ」
 益々顔を赤くする倉田さん。ああ、かわいい。
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇっ! て、てことは、もしかして、こ、告白とか……」
「うん」
「ま、待って。まだ心の準備が出来てないわ……いきなりクラスメイトに『私の正体は22世紀からやってきた人型ロボットだ』なんて言われたら……」
「そんな告白しないって。普通の告白だよ。それに、人型って言う必要ないんじゃ」
「『私の正体は普通のロボットだ』?」
「いや、そういうことじゃなくてね」
「わかってるわよぉ……」
 胸の前に置かれた指先が、リスみたいに小刻みに震えている。ああ、かわいい。
 こんないい子が、もうすぐ僕の物になるんだ。この国会議事堂の前で、苺大福を食べることによって……


 ……というか、肝心なことを忘れていた。
 苺大福がない。
 予言によると、苺大福を食べればいいらしいが、どうやって入手するかはわからなかった。だがおそらく、自分で購入しないといけないのだろう。タダで両想いになれるほど、人生は甘くないはずだ。僕の思考回路は苺大福より甘かった。

 僕がアンケートサイト等で得たお金がどれくらい溜まっているのか思案していると、不意に輝きが目を射抜いた。僕は瞼を閉じて、両腕で目を覆った。
 状況が飲み込めず、得体の知れない不安が押し寄せる。
 そして、おそるおそる目を開くと、ダンボール箱が現れたのだ。
 ーーー苺大福と書かれた


 ◇◆◇◆


「ああびっくりした。なんだったのかしら、今の光」
 目が光に慣れない中、声をたよりに反応する。
「さあね、それよりこれ見てよ」
「えっ、なにこのダンボール。……苺大福?! やったぁ、私大好きなの! もちろん、食べていいのよね」
 倉田さんは、さっきとは打って変わって満面の笑みで、苺大福ダンボールのそばへ一目散に走った。
 さっきまで照れまくってたのは何なんだろう? やはり演技なのだろうか。だとしたら少し悲しい。
 
 さて、ここからは慎重にやらないといけない。苺大福を同じ数だけ食べないといけないのだから。
 倉田さんは甘いものが大好きだから、うっかりしてると彼女の食べる量のほうが多くなる。
 それに、奇数個だった場合、半分に分ける必要がある。
 果たして彼女が、半分こなんてしてくれるのだろうか。
「すごい、20個も入ってるわ」
 ってもう開けてる?! 大変だ。早くなんとかしないと全部食べられてしまう。
 えーっと、20個なら、僕は10個食べないといけないことになるな。
 ……10個か。想像するだけで胸やけがしたが、両想いになるためだ。そんな泣きごと言ってられない。
 ……そういえば倉田さん、さっきの光は大丈夫だったんだろうか。
 僕は未だに目がチカチカするのに、やけに順応が速いなぁ。鍛えてるのかな。
 

 僕がどうやって分けるか思案していると、倉田さんが予想外の提案をした。
「らくだくん。二人で平等に分けましょうね」
「え、いいの?」
「もちろんよ。私のために用意してくれたとはいえ、全部貰ったら悪いわ」
 僕は感動していた。倉田さんにこんな女の子らしい一面があったなんて。自分勝手な倉田さんから物を貰えるということは、脈ありと見てもいいだろう。
 倉田さんは、ダンボールのそばにしゃがむと、自分の膝に苺大福をのせていく。
「じゃあ、まず私の分、10個ね。10、9、8、7、6、5、あと5つね。1、2、3、4、5。はいこれで10個。残りはらくだくんの分ね」
 倉田さんが自分の分を取ったので、僕は残りを取った。
「それじゃ、いただきまーす」
 ……って、あれ? ダンボールの中に9個しかないぞ? でも、倉田さんは10個取ったんだから、僕は10個のはずだ。
 どういうことだ。もしかして、最初にあったのは19個なんじゃ……?
 それとも……
 ……やっぱりか。倉田さんの手持ちを数えると10個。今食べているのと合わせると11個だ。油断した。
「ねぇ、倉田さん?」
「何?」
 口の周りにあんこをつけたまま、幸せそうな声を上げる。罪悪感というものがないのか、この人には。
「倉田さんの苺大福、僕より多いみたいなんだけど……」
「それがどうしたの?」
 ……。
「いや、平等に分けるって言ったよね?」
「言ったわよ」
「ならさ、どうして同じ数じゃないの?」
「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らずよ」
「それ、福沢諭吉が言ってた言葉だっけ? でも、それなら二人とも平等になるんじゃ?」
「この言葉には続きがあるの。神は全ての平等に作った。それなのに人間に差があるのはなぜか。それは、知識の量に差があるからよ。つまり、あなたの苺大福が少ないのは、あなたの知性が少ないからよ」
 さすがにムッとした。勝手に自分だけ多く大福を取ったくせに、馬鹿呼ばわりするなんて。そういう考えのほうが知性がないんじゃないだろうか。
「気付かなかった? 私はあなたの目の前で堂々と、11個の大福を取ったのよ」
 そう説明して、彼女は、大福を取った時の再現をして見せた。


 ……あれ? 11個取ってる……。
「そんなセコいことしてたの?!」
「セコくないわ。ひっかかるほうが悪いわよ、こんなの」
 いや、どう考えてもセコい。平等に分けようと言っておきながら、多く取るだなんて。
 全く、どうして苺大福のためだけに、こんな姑息な手段を使うんだ。
「どうしてこんなことするんだよ……」
「昨日の野球で、横浜が阪神に9-11で負けたから、ひっくり返してやろうと思ったのよ」
「わけわかんないよ!」
 あまりに理不尽な言い訳をされたので、顔が少し熱くなった。
「ただ単に、倉田さんが食い意地はってるだけでしょ!」
「失礼ね! 私そんなに食い意地はってないわ」
「……最近気づいたんだけどさ、きみって食べることが好きだよね」
「言い方の問題じゃないわよ!」
「とにかく、返してもらうからね」
「なんでよ! 大体、平等に分けなきゃいけない正当性なんてないでしょ!」
「あるよ! 最初に『平等に分けよう』って言ったじゃないか」
「それは知性が同じ場合の話でね……」
「ああっ、もういいよ。9個も10個も一緒さ」
 そうだ。別に僕は苺大福が好きなわけじゃないんだ。大体、苺大福なんて邪道だ。大福の中に苺を入れるなんて発想が間違ってる。苺がすっぱくて、大福のおいしさが半減してる。こんなのを食べるくらいなら、早苗さんのおせんべいパンを食べるほうがいくらかマシだ。
 ……そういいながらも、やはり空腹には勝てない。仕方なく、大福を口に運ぶ。
 大福は、涙の味がした。


 ◇◆◇◆


 僕は、倉田さんと何度が話しているうちに、少しずつ打ち解けたつもりだった。でも、彼女にとっては、僕はクラスメイトの一人に変わりないんだ。
 彼女への喪失感と、あんな予言を信じていた恥ずかしさが重なって、僕の中にうねるような感情の波を起こす。
 彼女の気持ちも考えないで、勝手に両想いになれるなんて思いこんで。
 僕は馬鹿だ。

「きゃっ! な、何これ?」
 突然、後ろから倉田さんの悲鳴が聞こえた。驚いて、彼女の方へ振り返る。
 振り向いた後、泣き顔を見られることを考えてなかったことに気付いたが、そんなことどうでも良かった。

 目の前に広がる光景に、唖然とした。彼女の苺大福が光っていた。それも、2つも。
 そして、彼女は2つの苺大福を胸に当てると……
「か、かわりに私を食べてっ!!」
 そう叫んだ。
 倉田さんがおおよそ口にしなさそうな言葉を聞いた。でも、それは確かに彼女から僕に向けられた言葉だった。
「そ、その……私、別に意地悪したかったわけじゃないの。まあ、苺大福は……好きなんだけど、ね。……ふ、二人きりで食べるのが……恥ずかしいっていうか、その……」


 苺大福がピンク色に光った。
 そして消えた。


 ◇◆◇◆


 帰り道。
 僕達は、両手いっぱいに苺大福を持って、一歩分の距離を空けて家へと歩く。
 苺みたいに真っ赤に染まった夕日が、二つの影法師を落としていた。

「これで、二人とも9個になったのね」
「え、うん。そうだね」
「あ、あの……私の大福、2つあげるわ。……私のせいで、二つ減っちゃったから。これで平等でしょ?」
「……いいの?」
「うん。もともと、私が悪いんだし」
「そうだね」
「……そこは否定するとこでしょ」
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三題噺「パジャマ、落し物、猫」

 青年は、不健康な暮らしを続けていた。あまり働こうともせず、暇さえあれば2chを見ていた。
 しかし、気が向けば機械の発明をしていた。

 彼が今回作ったのは、落し物の持ち主がわかる機械だ。箱の中に落し物を入れると、スクリーンに落とし主の顔や、住んでいる場所が表示される。

「よし、これでこのパジャマの持ち主がわかるはずだ」

 そう言って彼が取りだしたのは、先月拾った女性物のパジャマだ。散歩の途中で、ある民家の庭に落ちていたものだ。本来なら拾うべきでないのだが、うっかり持ち帰ってしまったのだ。

 持ち帰った時分は、罪悪感に苛まれることが多かった。しかし、今ではすっかりパジャマの虜になっていた。朝、夜と香りを嗅ぐのは日課になっていたし、昼間にダッチワイフに着せて楽しむ瞬間は至福の時だった。
 そんな日々を過ごしている内に、持ち主への欲求が抑えられなくなってしまった。そしてついに、この機械を発明したのである。

「きっと、持ち主はロリ顔で巨乳の女子高生に違いない」

 青年は淡い期待を持ちながら、パジャマを機械に入れた。すぐに持ち主がわかった。
 彼の顔が写っていた。

「なんと、これは私の物なのか。きっと長い間クンカスーハしすぎたのだろう。私が長い間愛用したのだから、もうこれは私のものなのだ」

 女子高生は映らなかったが、青年は少し上機嫌だった。



 次の日、彼は散歩に出た。久々に浴びた太陽は、容赦なく彼を射した。
 すると、細道から首輪をつけた猫が出てきた。彼がいつも餌をやっている猫だ。もちろん、餌代は親から出ているのだが。
 猫の愛くるしい仕草を眺めていると、彼は昨日の発明品のことを思い出した。あれを使えば、元の飼い主がわかるのではないか。

 家へ帰り、早速猫を機械に入れてみた。

 「まったく、ペットを捨てるなんてけしからん」

 ペットを捨てるような責任感のない奴だからな、いかにも悪人面な顔が映るに違いない。

 しかし、スクリーンには彼の顔が映っていた。

「私のものではない、返して来よう。いやしかし、今から捨てに行くと勘違いされるかもしれない。世話をするしかないのか。……だが、いつのまに私のものになったのだろう」

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